21世紀を迎える直前、ある花火のような作品がドイツの映 画界をその冬眠から揺り起こした。それはトム・ティクヴ ァ監督の『ラン・ローラ・ラン』である。赤毛のローラの 運命と恋と偶然を題材にした、実験精神に富んだコメディ は90年代後半の生きる感覚を見事にとらえている。ローラ がベルリンの街中で繰り広げる、命を投げ出した時間との 戦いを、世界中の人々が、時代のせわしなさのメタファー であると感じた。トム・ティクヴァ監督と主役を演じたフ ランカ・ポテンテは、この『ラン・ローラ・ラン』により 国際舞台への脱皮を図ることに成功した。ドイツ映画に飛 躍の時がやってきたのだ。偉大な映画監督ライナー・ヴェ ルナー・ファスビンダー(1982年没)の時代以来初めて、 再び国外からの関心がドイツ映画に集まり、ドイツ映画は 国際的な成功を収めるようになった。2002年にはカロリー ネ・リンク監督が『名もなきアフリカの地で』によってアカ デミー外国語映画賞を受賞。2007年にはフロリアン・ヘン ケル・フォン・ドナースマルク監督が映画第一作『善き人 のためのソナタ』でこの賞に輝いた。同じ2007年にはカン ヌ映画祭でファティ・アキン監督が『エッジ・オブ・ヘブ ン』で脚本賞と特別賞を受賞している。このほか、2007 年ドイツ映画賞を6部門で受賞したのが、パトリック・ ジュースキントのベストセラー小説を映画化したト ム・ティクヴァ監督の『パフューム ある人殺しの物 語』である。 21世紀初頭にドイツ映画に思いがけない成功をもた らしていたのは喜劇であった。たとえばハンス・ワインガ ルトナー監督の喜劇『ベルリン、僕らの革命』(2004年) がそうである。近年になると、中心を占めているのはむし ろ深刻なジャンルであるが、テーマは以前も今も一貫して いる。悲喜劇『グッバイ、レーニン!』(ヴォルフガンク・ ベッカー監督 2003年)は70カ国で上映され人気を博した が、それはこの作品が社会主義の挫折についても述べてい たからであり、ドナースマルク監督の『善き人のためのソ ナタ』(2007年)は、秘密警察のスパイ国家であった旧東 ドイツにおける人生と苦悩を描いている。ドイツ映画が成 功したのは、描かれているのはドイツ国内の出来事でも、 それが普遍的なテーマに触れるものだからである。しかし 映画制作者たちは、自国内での出来事や変革から物語の素 材を得て、それをフィルターにかけているのである。 トルコ系のハンブルク市民であるファティ・アキン 監督は、息もつかせぬ迫力でドイツにおけるトルコ人の生 活を語る。ベルリナーレ(ベルリン国際映画祭)金熊賞な ど数々の賞を受賞した『愛より強く』(2004年)において、 彼は2人のトルコ系ドイツ人の恋と、2つの文化の間で傷 つけられる心情を、残酷なまでの緻密さで感傷をまじえる ことなく描ききっている。アキン監督は、2007年には『エ ッジ・オブ・ヘブン』において、宿命的に結ばれた合わせ て6人のドイツ人とトルコ人の物語を描いている。 2007年ドイツ映画賞「ローラ」の最優秀作品賞を 受賞したのは、クリス・クラウス監督の刑務所ドラマ『4分 間のピアニスト』である。これは2人の女性とピアノをめぐ るドラマチックな物語で、主演のモニカ・ブライプトロイ にはドイツ映画賞主演女優賞が授与された。ドイツ映画の 興隆は数多くの柱に支えられている。今後の発展も大いに 期待される。
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