背景

ドイツ連邦共和国を構成する16の州

ドイツ連邦共和国は連邦制国家であり、連邦も、16の連邦州も、それぞれ独立した権限を有する。外交政策、ヨーロッパ政策、防衛、司法、労働、社会福祉、租税、保健の各分野は連邦が管轄し、国内の治安、学校、大学、行政、および市町村の各分野は州の管轄である。連邦の管轄は主として立法に限定され、連邦各州は連邦参議院を通じて代表を送り、連邦の立法過程に参加する。これに対し、州の行政は、州の法律のみならず、連邦の法律をも実行する任務を有する。連邦と州でこのように任務を分担する根拠は、ドイツの歴史にある。すなわち、国民国家としてのドイツは、1871年に多数の独立国が連合して成立したものであり、したがってこれ以上大きな中央集権的な国家行政は必要がないのである。16州のうち3州は都市州として特別な位置を占め、州の領域はそれぞれ大都市のベルリン、ブレーメン、ハンブルクに限定されている。その他のいわゆる広域州は、多数の市町村からなっている。

基本法

基本法は、立法には憲法に則った秩序を、国家行政には法と法律の遵守を義務づけている。基本法第1条は特に重要で、ここには憲法秩序の最高善として人間の尊厳を尊重するよう次のように掲げられている。「人間の尊厳は不可侵である。これを尊重し、かつ保護することは、すべての国家権力の義務である」。他の基本権では、たとえば法の範囲内での行動の自由、法の前の平等、報道の自由、結社の自由、家族の保護が保障されている。

基本法は、ドイツを法治国家と定めている。さらに、基本法はドイツを法治国家と定めている。国家が行うすべての活動は司法の管理下におかれる。もうひとつの憲法原則は連邦国家である。つまり、統治権を支分国である州と中央国家である連邦とで分割する。また、基本法はドイツを社会国家と定めている。社会国家は、人々が就業能力を失っても、障害や疾病をかかえても、高齢になっても、人間の尊厳に適う実質的な生活が保障されるように、政治が予防対策を講ずることを要求する。基本法の特殊性は、基本法の柱となる憲法原則の持ついわゆる「永久性」にある。基本権、民主主義的統治形態、連邦国家と社会国家といった原則は、後に基本法が改正されても、あるいはまったく新しい憲法が制定されても、これを侵害することは許されない。

基本法は、国民が特別の機関を通じて国を統治するものとし、統治形態を代表民主制と規定している。ドイツ各州の憲法では、さらに次のような直接民主制の手段が想定されている。住民発議は、わずかな数の市民でも州議会に法律制定を要求することができるもの。同様に住民請願は、法案を提出して議会にこれを可決するよう要求するものである。議会が請願に従わない場合は、引き続いて住民投票がおこなわれ、多数の賛成があれば法案を可決することができる。

連邦参議院

連邦参議院は州の代表機関であり、連邦議会にならぶ一種の第二院である。連邦参議院はすべての連邦法を審議しなくてはならない。州の議院である連邦参議院は、他の連邦国家では上院と呼ばれることの多い第二院と同じ機能を有する。連邦参議院には各州政府の代表だけが所属する。各州の表決権の配分は州の人口に応じて決められるが、厳格に比例するわけではなく、すべての州が少なくとも3票をもち、人口の多い州は最高6票までを持つ。

連邦参議院は連邦法の成立に参画する。その点で他の連邦国家の第二院とは異なる。基本法は2種類の参画を規定している。州に新たな行政費用を発生させる連邦法、あるいは既存の州法に代わる連邦法の制定には、連邦参議院の同意が義務づけられており、連邦議会の法決議が効力を持つためには、連邦参議院の同意が必要である。この点で連邦参議院は連邦議会と同等の立法機関として位置づけられている。現在ではすべての法決議のほぼ半数に参議院の同意が義務づけられている。基本的に連邦法は州の行政により執行されているため、最も重要な、また財政負担の大きな法律は各州の行政主権に関わるのである。連邦参議院の同意を要するこれらの法律と、連邦参議院が「異議を申し立てることができる法律」とは別のものである。連邦参議院は後者の法律を拒否できるが、連邦議会はこの異議申し立てを連邦参議院と同じ多数、つまり単純多数、あるいは3分の2の多数、後者の場合すくなくとも連邦議会総数の過半数(絶対多数)で、却下できるのである。

2006年9月以降、連邦制改革によって、連邦と各州の管轄範囲が改められている。この改革は、連邦と各州の行動力と決定力を改善し、政治責任を明確にすることを目指したものである。

連邦国家

ドイツ連邦共和国は16の連邦州で構成されている。国家権力は中央国家である連邦と連邦州が分け合っている。連邦州は、制限はあるが独自の国家権力を有する。

連邦大統領

ドイツ連邦大統領は国家元首として国を代表する。連邦大統領は諸外国に対しては連邦を代表し、連邦大臣、裁判官、 上級公務員を任命する。法律は連邦大統領の署名により発効する。内閣を解任し、2005年夏の例にもあるように、議会を例外的に早期解散することができ る。米国大統領あるいは他の国家元首は議会組織の法決議に対し拒否権を持つが、ドイツの基本法は連邦大統領にこの権限を与えていない。連邦大統領は議会の 決議あるいは政府の人事案を承認するが、基本法の規定に則ってこれらの具体的な成立を確認するに過ぎない。

連邦大統領の任期は5年で、再選は1度だけに限られる。連邦大統領は連邦集会によって選出される。連邦集会は連邦議会議員および16の州議会からそれぞれ選出される同数の代議員によって構成される。

連邦憲法裁判所

連邦憲法裁判所はドイツの戦後民主主義の特徴をあらわす機関である。連邦憲法裁判所は、民主主義的に則って成立した法律でもこれが違憲であると判断した場合、これを無効にできる権利を基本法によって与えられている。連邦憲法裁判所は申し立てを受けてのみ活動する。申し立てができる機関は連邦大統領、連邦議会、連邦参議院、連邦政府などの連邦機関あるいはその機関の一部である議員や院内会派、そして各州政府である。連邦憲法裁判所は「違憲論争」の際には、基本法で保障されている三権分立の原則および連邦国家を擁護するために活動する。また、議会の少数派でも法規範に対する異議申し立て(「抽象的規範統制」)を連邦憲法裁判所に嘆願できるように、その際は連邦議会議員の3分の1の数を満たせば十分とする。

さらに、国家によって基本的権利が侵害されたと思うなら、国民は誰でも「憲法異議」を申し立てることができると基本法に定められており、毎年何千人もの国民が憲法異議を申し立てている。ただし憲法裁判所は数ある異議申し立ての中から、基本法適用に重要な示唆を与える判決が予想されるものだけを選ぶことができる。ドイツの各裁判所が、ある法律を違憲であると判断した場合、その裁判所は必ず「具体的規範統制の訴え」を憲法裁判所に起こすよう義務づけられている。すべての裁判権に関わる憲法解釈ができるのは唯一連邦憲法裁判所だけなのだ。

連邦政府

連邦首相と連邦大臣とで連邦政府、すなわち内閣を形成する。首相には政府の施政方針を決定する方針決定権限が与えられているが、各連邦大臣には、この方針の範囲内でそれぞれの所掌職務を自主的に指揮する所管権限が与えられており、また、連邦政府には論議の的となる問題を多数決で決定するという合議制原則が定められている。全体を指揮するのは首相である。

連邦首相と政府

連邦首相は唯一人、選出された連邦政府の閣僚である。憲法は重要な政策官庁の長である大臣を、自ら選任する権利を連邦首相に与えている。首相は省の数とその管轄を決定する。また、政治の方針を決定する権限を持つ。これは、政府の活動の重点をどこにおくべきか、法的拘束力をもって定める権利が首相にあることを意味する。この権限があることで、首相は大統領民主制における大統領の統治権力に匹敵する統治手段を有している。

1949年に基本法を制定した全州議会評議会は、英国の首相像を連邦首相の手本としていた。英国の首相は連邦首相とまったく同じ権力手段を持つが、実際は連邦首相の権力は英国の首相のそれに比べはるかに弱い。英国の過半数制度は最大政党に有利なため、英国の議会制度では常に一党だけが政権を握る。これに対し、連邦議会ではどの政党も過半数を得られないのが通例である。そのため、連邦首相の選出には通常、連立を組む必要がある。

連邦首相を選出する前に、ともに政府を形成しようとする連立パートナー間で詳細な協議がおこなわれる。ここでは各党間の省の配分、どの省を残し、どの省を新たに創設すべきかが個々に協議される。議席数の多い方の党に連邦首相候補をたてる権利がある。さらに、パートナー間でその後数年間に着手する計画について合意する。こういった連立協議の結論が連立契約に書き記される。こうした段階を踏んだ後初めて、連邦首相が選出される。与党間の協議により、連邦政府の決定に必要な準備と手続きが進められる。連邦議会総選挙の時期を迎える前に、与党間で政策上の共通項が見いだせなくなった場合、連邦首相の退陣が協議される。その際には、現職首相を「建設的」不信任投票で更迭すると同時に、新しい首相が選出されねばならない。議会の信任を取り消すという攻撃的な通告をするためには、連邦議会に議席を持つ政党が、首相を更迭する前に、活動能力があり過半数を確保できる与党を新たに形成しなくてはならないのである。首相退陣はこれまで2度試みられたが、実現したのは1982年に1度だけである。当時のヘルムート・シュミット首相(SPD)に対する不信任表明によりヘル ムート・コール(CDU)が選出された。

連邦首相もまた、与党から無制限の支持を得ているかを確認するために、いつでも連邦議会に信任を問うことができる。採決の結果首相の信任が拒否された場合、つまり過半数の与党の一部が首相から離反した場合、連邦議会の解散総選挙の可否は連邦大統領の判断に委ねられる。連邦大統領は連邦議会の政党に、新政府の形成を試みるよう要請することもできる。

ドイツ連邦共和国の歴史の中で、信任投票で首相が真の意味で敗北したことは一度もない。しかしこれまでに3度、あらかじめ申し合わせて敗北という形をとったことはある。与党議員や閣僚が内閣解散のために信任投票を棄権したのである(1972年、1982年、2005年)。こうした方法がとられるのは、憲法に則った形で議会を早期解散に持ち込むには他に手だてがないからである。ただしこれには連邦大統領の同意が必要であり、また、このようなやり方に対しては法的に異論もある。

5%条項

連邦議会で政党が議席を得るのは、選挙の際に有権者が投じた票の5%以上を獲得するか、あるいは党の選挙区候補者を最低3名当選させた場合に限られる。